130809 扉

強い西日のさす路上に佇む影がふたつみっつ。
雑居ビルのエントランスや電柱の背後からうかがう視線の先には、構えの大きな料亭の玄関があり何台かの黒塗りが停まっている。誰が誰と会ったのか、会合の中身は何だったのかを探るために張っている様子だ。
ジャイ○ンツOB会、のような隠しだてする必要のない会合なら、張る方は玄関脇で待機するし道路の反対側にはカメラマンの脚立が並ぶ。華やかさとは無縁の、帰宅を急ぐ通行人や酔客の団体はすれちがっても気づかない、上着を着込んだまま流れてゆく時間。


裏口の用意もある、という話は料亭の小僧さんから聞いた。
通りから様子をうかがえる玄関前を通らずに、調理場を経由して器の収蔵庫(魯山人やらその写しやら)を抜けると、玄関でも従業員用の勝手口でもない扉にたどりつく。そこは料理人のシマなので案内するのは仲居さんではなく調理場の小僧さんとのことだった。
表玄関に黒塗りを繋いだまま「扉」から出て別の車に乗り換えれば、尾行を巻くことができる。そもそも扉から入って扉から出てゆく客もいるのではないだろうか。


張っている方が扉の存在を知らない、とは考えにくい。利用者も扉を使えば張りから免れることができる、と信じてはいないだろう。
扉を利用する会合は非公式中の非公式の意思表示だろうし、そうなれば「誰と何を」について話者も聞き手もより慎重に、相手を選んで情報交換がなされる。そんなところではないか。
陽が落ちてやっと吹き始めた風にあたりながら人影を眺め、なんの役にもたたないことを考えた。


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130420 リストランテの風景〜デシャップ

はじめて飲食店で働いたのは30も半ばを過ぎてから、青山のはずれにあるイタリア料理店だった。まちがった採用の結果として3ヶ月でクビになったが、そのあいだ月曜から金曜までランチもディナーも常に予約で満席、土曜の夜だけ希に空席を見かけた。朝9時から夜の11時まで、キッチンではシェフを含めた5人の料理人がストーブや調理台に向き合い、ホールはマネジャーを入れて4人でサーヴィスを担当した。店の扉の開けて「お待ちしておりました」「コートをお預かりします」「お席へご案内します」と続いて4人のお客の椅子を引く流れに3人は必要だ。客単価2万円の40席をフルサーヴィスでまわすのが4人。ギリギリだったから、ほとんどなにもできない4人目は先輩たちにとても迷惑をけた。



デシャップとは調理場で出来上がった料理をカメリエーレが受け取るスペースのこと。Dish Upが訛ったらしい。その店の調理場スペースはとても狭く、一番遠く(といっても3m先)で作られるアンティパストがほかの料理人を中継する手渡しでデシャップに置かれる(奥から運んでくると誰かの背中に当たって盛りつけが崩れる)くらいだったから、デシャップも小さかった。5皿並べばいっぱい。ホール側に伝票が並べられていて、「声かけ」が済んだり出し終わった料理に印をつけるための赤鉛筆が1本、ころがっていた。



息を切らしながらデシャップに駆け込んで10枚の伝票に目をとおす。もちろん走ってなんかいないのに、緊張と手順の煩雑さで毎晩目が回るようだった。ドゥーエにパンとバターのおかわり、チンクエとオットーは肉料理ができあがるからその前に空いたお皿とシルバーを下げる、と。ウノのパン屑をダストパンで掃除する方が先かな。グラスもシンクにずいぶん溜まっているはずだ、マネジャーに言われる前に洗わないと。
「コジマさん」
と呼ばれて気づくと、となりにS村さんが立っている。ハタチをいくつか過ぎたばかりの女の子だけれど、仕事は恐ろしくできる。
「はい」
背中を丸めて調理に没頭する料理人たちの姿を背景に、伝票から目を上げずに返事をする。なにかやらかしたかな?えーい、なにを忘れたんだろう。
「クワトロなんですけど」
「はい、クワトロ」
彼女の声の変調が気になって振り向くと顔が歪んでいる。
「靴音がうるさい、って言われたので、わたし近寄れませんから。よろしくお願いしますね」
それだけ言って出て行ってしまった。



店の床は木で、彼女は少し高めのヒールを履いていたからたしかにコツコツと歩く音はした。それにしたって神経質なお客だな。あ。クワトロっていえばテーブルに行くたびにサーヴィスをあれこれ批評するお客じゃないか。嫌だなあ。
「コジマさん!」
ワインセラーに向かう途中らしいマネジャーが顔を出す。
「ドゥーエとトレのお水が空だよ。セッテに食後の飲み物はうかがったの!?」
身を翻していなくなる。



大きな店ならデシャップと下げ場は別だけれど、この店はスペースがないので兼用だった。料理が残ったままのお皿を下げてデシャップに置く。
「シェフ、鴨が残っちゃいました」
ストーブの前のシェフが振り向く。顔には玉のような汗が流れている。この人は仕事中はいっつも汗をかいているのだ。一日にどれくらいの汗を流すのだろう。
「なんだって?」
口調が穏やかなのがかえってコワい。
お出しして進まない料理は尋ねることになっている(「お口に合いませんでしたか?」)から、それを恐る恐る復唱する。
「硬くて食べられない、とのことでした」
ストーブの火の加減を確かめてから、シェフが近づいてくる。タオルで顔をぬぐい、ローストのひと切れをつまみ、上を向いて口に放り込む。もぐもぐと咀嚼する顔には、もう新たな汗が浮かんでいる。
「これを硬いといわれちゃあ、どうしようもありません」



料理が残って戻ってくるお皿はとても珍しかった(記憶では2皿しかない)。これは調理場とホールにおけるニュースで、忙しく立ち働く従業員たちのあいだに静かに、しかしまたたくまに広がった。
「シェフ、いただきます」
「どうぞー」
スーシェフがひと切れをつまんで口に入れ5秒ほど宙を睨んでから持ち場に帰っていく。3番目と5番目はひと切れを分けあって食べた。
「コジマさんも食べてください」
「え?いいんでしょうか?」
「いいんですよ、味を覚えてください」
さっさと飲み込んでS村さんが言う。最後のひと切れをつまんで口にいれ指先をタブリエで拭いていると
「あっ!」
と小さく叫ぶ声がする。ドルチェの盛りつけから手を離せずに遅れてやってきた4番目に恨めしそうに睨まれた。
スーシェフ以下の料理人たちは、じつはシェフの料理の味を確認する機会が滅多にない。シェフの作る料理は客席に運ばれるわけだし、賄いはスーシェフ以下が順番で作ってシェフは作らない。料理の残ったお皿は限られた試食の機会で、4人目が4番目のチャンスを奪ってしまったのに気づいたときには手遅れなのだった。



「一発目は何時?」
「はい、6時でーす!」
地下にあるこの店の調理場は隣がビル全体の機械室になっていて、給排水の配管やら屋上の給水塔に水を送るモーターらしきものが雑多に配置されている。夕方の仕込みが終わり忙しく賄いをすませたあと、料理人たちはここにしゃがみこんで一服していることが多かった。
「あーあ。どうして日本人って6時に晩御飯食べるんだろうね。早すぎるよなあ」
気分的には、6時から晩メシなんて早すぎる、のほうがぴったりだけれど、店の女性オーナーが言葉遣いにやかましかった(食べる、じゃなくて召しあがる、いただく、ワインの匂いではなく香り)。機械室から聞こえるシェフのぼやきも妙に優雅でおかしかったことを思い出す。
「一発目」でスタートして終電を気にしながら皿を拭き終えるのは11時半、毎夜繰り返される長い長い戦いを前にした5分、せいぜい10分の静けさのなかで、煙草をふかしあるいは目を瞑り、それぞれ何を想っていたんだろう。



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111231 皆様へ

年末にいらしたお客さんを「良いお年を」の型通りの挨拶で送り出そうとしたときだ。コートを着込んだFさんは少し立ち止まり
― 来年が良い年にならないのはわかってるんですよ。でもがんばります。
外を見据えたままそう言って出て行った。


お客がいなくなった店の中でひとり、後片付けをしながら、その言葉を繰り返してみた。繰り返し繰り返して思い至った。過去や他者と比較するのはよそう、未来を描いたりビジョンを持つのもやめよう、と。


もともとぼくには幸せ不幸せの概念が希薄だ。かわりに「満足」や「納得」を大事にしてきたつもりだ。
いっそのこと犬になっちまおう。
過去の(山ほどの)失敗は何倍かに希釈してよすがとはするけれど、基本的に現在をじゅうぶんに生きることだけを考えよう。単純にやってゆく。そうやって楽しげな相棒と8年間もいっしょに暮らしてきたのだから。


これからクローカと、一人と一匹で竹芝桟橋へ向かいます。冷たい空気を吸いながら歩いてときどき走って、新年の汽笛とともに頭の中を空にしようと思います。
みなさんよいお年を、とは言いません。


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 お知らせ

ご無沙汰しています。


ただいまのところもっぱら読書ブログに注力しています。興味のある方はぜひこちらへ。→ 読書する駄馬 http://d.hatena.ne.jp/do_dokusyo/


もうひとつ。
ずいぶん前のことですが、4月に本を出しました。
酒場にまつわるエッセイ
グラッパのガイド本
どちらでもなく、飼い犬のブログ本です(笑)
自費出版ではなく、商業出版です。まいにちの犬ブログの最後で案内していますから、こちらからどうぞ。→ http://kloka.exblog.jp/

 100701 雪

(著者)オルハン・パムク

(訳者)和久井路子

(出版)藤原書店、2006年/原書は2002年


読書好きをも遠ざける要素が、この本にはたくさんあるように思える。つまりトルコのノーベル賞作家(2006年受賞)の、600ページちかい長編小説なのだ。
日常の会話で話題になることの少ない、理解の難しい異文化・ほぼ確実に予想される難解さ・手にしたときの圧迫感の3点セットをもつ小説は、そんなに多くないのではないか。


案の定、物語は「イスラム教徒の女性がスカーフで髪を覆うこと、髪を出すこと」に由来する事件ではじまる。
極東に住むこちらはそれを知識として知っているばかりで(「女性は美しいところを隠すように」って『コーラン』のどっかに書いてあるんだったなあ、『コーラン』読んだことないけど)、その意味を理解するのは生きている間はおよそ不可能だろう。
それで、あぁやっぱりそういうふうに始まるわけね、でもも少しこちらが「アタマで知ってる」レベルじゃなくて「ココロでわかる」ストーリーを展開していただけると、ありがたいなあ。なんてしぶしぶ読み始めるのだ。


舞台は大雪で交通を遮断された、寂れた小さなカルスの街を一歩も出ない。
宗教と政治の対立と貧困をめぐって、物語はその周辺をぐるぐる巡っている。
にもかかわらず、ふと気づくと読み手はカルスの住人のひとりになっているのだ。
手品のように、実感の乏しい文化や異なる風俗はいつのまにか向こう側からこちら側にやってきている。そして人々の屈託もささやかな楽しみも愛しい人を思う気持ちも、まるで自分のことのように思えていることに気づくことになる。


政治にふりまわされ、暴力に怯え、宗教のくびきに束縛される。か弱くやわらかな存在の人間は、同時にしたたかで強靭であり、場合によっては自殺する(あるいは殺される)くらいに主体的で自由なんだ、という強いメッセージが、宗教・文化・風俗の壁を取り払って伝わってくる。恐ろしく静的な物語が発する熱量は膨大で、それが世界中で読まれる理由なのだろう。傑作だと思ったが、邦訳本は残念ながら文章がぎこちない。そこに目を瞑る寛容さと、筆者が著しただろう原文を想像する能力が必要かもしれない。


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 100622 折り合い

陸上競技場のスペックの話題のなかで「どこでもおんなじ規格なんでしょうから」と発言したときは慎重を期したつもりだった。お客は昨年8月のベルリンの世界選手権でウサイン・ボルト世界新の走りやイシンバエワが記録無しで落下するのを目の前で見てきたのだから。


すこしの沈黙があって
― それが、ちがう。
と驚くべきことを言う。テレビに写る競技場はおんなじ楕円にしか見えないが、ヨーロッパのトラックはコーナーのR(半径)の取り方が日本と違うのだそうだ。


混乱するこちらを相手に、紙に書いて説明してくれた。
『直線からコーナーに入るカーブの半径はきつい。そしてゆるやかになる。直線にむかう出口でまたきつくなる。おそらく直線が(日本にくらべて)長い』
日本の陸上競技場の曲線部分がひとつの芯を軸にしているのに対し、あちらでは3箇所の芯がありRが異なる。前者を一芯円(単芯円)、後者を三芯円のトラックと呼ぶのだそうだ。


「なぜそんなことをするんでしょう?走りにくいでしょうに」の問いに、
― はじめて遠征した日本の選手は、まず良い記録が出せない。
と当然の答えが返ってくる。
このフシギの秘密は、ヨーロッパのNo.1スポーツの影響によるものだった。


そう。サッカーなんですよ。
陸上競技場のフィールド部分には、たいていサッカーフィールドが併設される。ピッチの大きさはじつは決まっていないようだが、国際大会などでは105m×68mが「お約束」のようだ。
では、日本の陸上競技場のように100mの直線を2本と一芯円の100mのカーブを2つで400mのトラックを構成して、内側にサッカーフィールドを入れるとどうなるのか。


フィールド自体はなんとか収まるらしい。
しかしサッカー競技のレギュレーションでは、選手がラインぎわで競り合って外に転がり出ても安全を確保できるように、ラインの外「1m50cm」は芝生が連続していなければならない。この部分が、四隅のコーナーポスト付近で陸上競技の走路と重なり合ってしまう、のだそうだ。


「サッカーのフィールドを回避して陸上競技のトラックを配置する」発想が、直線長め・コーナーきつめの三芯円の陸上競技場発祥の由来のようだ。この方法を用いない日本の場合、サッカーフィールドとしての東京の国立競技場の縦は3m短い102mしかなく、選手は「ゴールが近い」と感じる、とも聞いた。
(『サッカーの話をしよう』 http://www.soccertalk.jp/content/1994/03/no45.html)


以上、ただのウンチク話にすぎないが、「陸上競技場」と「サッカーフィールド」の折り合いのつけ方については検索をかけてもほとんど出てこない。いまどきgoogleで拾えない事象は珍しく思えたので、記してみた。 
 

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 090817 呼び声

 今年の夏は短かそうだ。過ぎ去ってしまう前に夏らしい話題をひとつ。

 
 昔はよく山に登った。
 どちらかといえば低山のひとり歩き専門で、おなじエリアに繰り返し通ううちに、登山道のない尾根筋までたどるようになった。


 ちょうどこの季節の、ひどく暑い日だったと記憶する。
 朝から登りはじめてなじみの頂上を踏んだあと、地形図と磁石を頼りに未知の尾根に入った。
 たちまちイバラの群れと戦う羽目に陥った。なんという種類だろう?外来種らしいおおきな棘をもつ草は背丈ほどにも伸び、そんなことも予想して長袖に手袋で挑んだものの、腕や顔を擦り傷だらけにしながらすこしずつ進んでゆく。


 昼ごろには海辺のピークにたどり着くはずが、昼ちかくになっても予定の半分もはかどっていない。
 2時ごろ、尾根筋をあきらめて谷へ下降をはじめた。鹿や猿に見送られながら急斜面をしばらく下ると、川沿いの林道に出る。批判も多い、いわゆる『山奥土木』の産物らしく舗装されているが、路面はひび割れ、ガードレールにはツタがからまり、そもそも集落と集落をつなぐ道ではないから車一台通らない。
 バスが通う村を目指して、林道を歩きはじめた。


 しばらくして、はじめは控えめに、やがてはっきりとそれが耳に届くようになった。
 声が聞こえるのだ。誰かが呼んでいる。
 足を止めて周囲を見まわし、ガードレールから身を乗り出して木々の間からわずかに見える川面を探ったりしたが、声の主は見つからない。
 そもそも、その呼び声は聴覚に届いているというよりも、第六感に訴えているのではないか?


 こちらはそういうものを信じるでもなければ、もちろん遭遇したこともない。リアルを旨としているので、やや混乱した。そしてすこし怖くなった。足早に林道を下って集落にたどりつく1時間ほど、呼び声はずっと聞こえ続けた。声の主は谷の方向から呼びかけているように思われた。


 事件に遭遇したらしく以前から行方不明になっていた人物がもの言わぬ姿で見つかった、というニュースに接したのはその2日後だ。
 地名に覚えがある。地図を手に調べると、彼がみつかったのはこちらが歩いていた林道から川に降り、反対側の小尾根を越えたところの川筋、つまり「となりの谷」だった。
 

 次の休日、車で現場まで行ってみた。
 あれだけ呼んでいたのに、見つけようとしないで申し訳なかった。そんなことを念じてみたけれど、声はすっかり止み、川のせせらぎと蝉の声のほかに聞こえるものはなかったのである。

 

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